PR
黒羊キャラクター j-item の案内役、黒羊です。

父のカレーを、もう一度食べたいと思ったことはありますか。|『父が作った最後のカレー』あとがき

あとがき
黒羊キャラクター
黒羊メモ
この記事では、初心者にもわかりやすくポイントを整理しています。

カレーという料理は、不思議です。

高級な料理ではないし、特別な日にだけ食べるものでもない。

むしろ、あまりにも日常に近い料理です。

大きな鍋で作って、家族で食べる。

次の日にも残っていて、少し味が変わっている。

家によって、肉が違う。
辛さが違う。
入っているものも違う。

だからでしょうか。

「昔、家で食べていたカレー」を思い出そうとすると、味より先に別のものが浮かぶことがあります。

台所から漂ってきた匂い。

鍋の蓋を開けたときの湯気。

食卓に座っていた人。

「できたぞ」と呼ぶ声。

そんな、料理とは直接関係のない記憶です。

今回書いた短編小説、

『父が作った最後のカレー』

も、そんなところから生まれました。


「おいしいカレー」の話を書きたかったわけではありません

この物語の中心にいるのは、美緒という女性です。

父を亡くして一か月。

実家の片付けに戻った彼女は、台所で三冊の古いノートを見つけます。

表紙に書かれていたのは、たった二文字。

「カレー」

父が何年も書き続けていた、カレーの記録でした。

ただ、この物語で書きたかったのは、

「亡くなった父のレシピを見つけて、懐かしい味を再現する」

という話ではありません。

むしろ、その逆です。

人は、本当に「味」を覚えているのだろうか。

そんなことを考えながら書きました。


家族は、大切なことほど言わない

家族というのは、少し変な関係です。

他人には「ありがとう」と言えるのに、家族には言わない。

心配していても、

「大丈夫か」

ではなく、

「ちゃんと飯食ってるのか」

と言ったりする。

会いたくても、

「帰ってきてほしい」

とは言わず、

「今度の日曜、暇か」

と聞いたりする。

たぶん、長く一緒にいるからなのでしょう。

言わなくても分かると思ってしまう。

そして、分からないまま時間が過ぎることもあります。

『父が作った最後のカレー』に登場する父親も、そんな人です。

決して、言葉の多い父親ではありません。

だからこそ私は、この父親に長い台詞を与えたくありませんでした。

その代わりに残したものがあります。

それが何なのかは、ぜひ物語の中で見つけてもらえたらと思います。


レシピには書けないもの

料理にはレシピがあります。

玉ねぎ何個。

肉何グラム。

水何ミリリットル。

弱火で何分。

きちんと残しておけば、かなり近いものを作ることができます。

でも、どうしても書き残せないものがあります。

誰と食べたのか。

何時に帰ってきたのか。

その日、何を話したのか。

食卓の向こうに誰が座っていたのか。

そして、

誰かが帰ってくるのを、どれくらい待っていたのか。

料理の味は、材料だけでできているわけではない。

この第1話を書くうえで、ずっと大切にしていたことです。


読み終わったあと、誰かの料理を思い出してもらえたら

この物語で、泣いてほしいとはあまり思っていません。

もちろん、何かを感じてもらえたら嬉しいです。

でも、それ以上に、

読み終わってスマートフォンを閉じたあと、

「あの人が作っていた料理、なんだったっけ」

と、ほんの少し思い出してもらえたらいい。

父のカレー。

母の味噌汁。

祖母の煮物。

祖父が焼いた、少し焦げた魚。

兄弟と食べたカップラーメン。

昔の恋人と入った喫茶店のナポリタン。

料理そのものは、もう食べられないかもしれません。

同じ材料を揃えても、同じ味にはならないかもしれません。

それでも、その料理を思い出した瞬間に、一緒にいた人まで少しだけ戻ってくる。

私は、食べ物にはそういう力があると思っています。


『料理には、言葉がある。』という物語

『父が作った最後のカレー』は、

「料理には、言葉がある。」

という短編シリーズの第1話です。

大きな事件が起こる物語ではありません。

日常の中に残された料理と、その料理に結びついた人の記憶を描いていきます。

言えなかったこと。

聞けなかったこと。

忘れたと思っていたこと。

そして、あとになって初めて意味が分かること。

そんな小さなものを、一皿ずつ書いていくつもりです。

第1話の題材にカレーを選んだのは、おそらく一番「家の匂い」を持っている料理だと思ったからでした。


最後に、ひとつだけ

もし今、

昔よく食べていた料理を一つだけ思い出せるとしたら、

何を思い出すでしょうか。

そして、その料理を作っていた人は、

食卓の向こうでどんな顔をしていたでしょうか。

もしかすると、覚えていると思っていた「味」は、

料理そのものではないのかもしれません。

そんなことを考えながら読んでもらえたら嬉しいです。

第1話『父が作った最後のカレー』は、noteで全文無料公開しています。

物語の内容には、ここではほとんど触れませんでした。

父が残した三冊のノートに何が書かれていたのか。

美緒が父のカレーを作ろうとして、何を見つけるのか。

そして最後に残る、小さな違和感とは何なのか。

その答えは、物語の中で。

第1話『父が作った最後のカレー』を読む

第1話 父が作った最後のカレー|Ayla
父のカレーには、 レシピに書かれていない時間があった。 * 父が死んでから、家の中で最初に消えたのは、台所の匂いだった。 醤油も味噌も、半分ほど残ったサラダ油もある。冷蔵庫の扉には、父の字で書かれた「福神漬け」というメモまで、黄色い磁石に挟...

読了後、もう一度このあとがきに戻ってきてもらうと、少し違って読めるかもしれません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました