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『二人分のクリームシチュー』あとがき|空いた席に、誰かを迎えるということ

あとがき
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この記事では、初心者にもわかりやすくポイントを整理しています。

大切な人がいなくなったあとも、なかなか変えられない習慣があります。

いつも買っていたもの。
いつも座っていた場所。
いつも作っていた料理。

もう必要ないと分かっていても、やめてしまうと、その人との時間まで消えてしまうような気がする。

第4話「二人分のクリームシチュー」は、そんな小さな習慣から生まれた物語です。

「忘れること」をゴールにしたくなかった

今回、いちばん大切にしたかったのは、恵子が夫・和夫を忘れる物語にしないことでした。

悲しみを乗り越える。
思い出を手放す。
前を向く。

そういう言葉はよく使われます。

けれど、大切な人を失ったあとに必要なのは、本当に「手放すこと」なのだろうかと思います。

忘れなくてもいい。

思い出の品を残していてもいい。

昔と同じ料理を作り続けてもいい。

そのままでも、新しい誰かと笑うことはできる。

だから恵子は、夫の銀色のスプーンを捨てません。

来週の日曜日も、きっとじゃがいもを大きく切るでしょう。

ただ、その隣に青いスプーンを置けるようになる。

今回描きたかった変化は、それくらいのものです。

なぜ「クリームシチュー」なのか

クリームシチューは、不思議な料理だと思います。

じゃがいも。
にんじん。
玉ねぎ。
鶏肉。

形も味も違うものが一つの鍋に入り、煮込まれていく。

それでも、それぞれの形が完全になくなるわけではありません。

違うものは、違うまま。

それなのに、一つの料理になる。

今回の物語では、その感覚を恵子と陽太の食卓にも重ねています。

陽太は、和夫の代わりではありません。

和夫は黒胡椒を多めに振る人でした。

陽太はクラッカーを砕いて入れる子です。

まったく違います。

だからこそ、あの食卓には新しい時間が始まります。

「今日は冷めなかったね」

この話を書いていて、最後まで残したかった言葉があります。

「今日は冷めなかったね」

陽太にとっては、ただ目の前のシチューについて言っただけなのかもしれません。

けれど恵子にとっては、一週間前とは少し違う言葉として聞こえたのだと思います。

前の日曜日には、誰にも食べられないまま冷めていった一皿。

次の日曜日には、二つとも空になりました。

特別な出来事が起きたわけではありません。

誰かが帰ってきたわけでもありません。

ただ、一人だった食卓に、もう一人が座った。

この物語は、それだけの話です。

でも、人の生活が変わる瞬間は、案外それくらい小さいのかもしれません。

空いた席は、誰のものなのか

誰かがいなくなったあと、その人がいた場所へ別の誰かを迎えることに、少し罪悪感を覚えることがあります。

その場所を渡してしまったような。

思い出を上書きしてしまうような。

けれど、新しい誰かがそこに座ったからといって、以前そこにいた人との時間がなくなるわけではありません。

増えるのだと思います。

銀色のスプーンの隣に、青いスプーンが増えるように。

黒胡椒の記憶の隣に、クラッカーの記憶が増えるように。

人は、何かを消して前へ進むのではなく、抱えているものを少しずつ増やしながら生きていくのかもしれません。

あなたにも、変えられない習慣はありますか?

もう必要ないと分かっているのに、残しているもの。

今でもつい二人分を用意してしまうもの。

誰かを思い出して、同じ味を作ってしまう日。

それを無理にやめる必要はないのだと思います。

いつか、その隣に別の何かを置ける日が来るかもしれない。

そのくらいでいい。

第4話「二人分のクリームシチュー」。

読み終えたあと、あなた自身の食卓や、そこに座っていた誰かをほんの少し思い出してもらえたなら嬉しいです。

料理には、言葉があります。

同じ鍋を囲むことも、ときには言葉の代わりになるのかもしれません。

――Ayla

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