むかしむかし。
……ではなく。
現代日本。
政府のある会議室で、十二人の大人が頭を抱えていました。
机の中央には、一枚の資料。
表紙には大きく、
極秘
と書かれています。
その下。
緊急対策会議
「太郎案件」について
内閣危機管理担当の男が言いました。
「確認します。」
誰も返事をしません。
「確認しますよ?」
十二人全員が嫌そうな顔をしました。
男は資料を読み上げました。
「現在、日本国内において、“太郎”を名乗る人物に関係する異常事案が三件、同時発生しています。」
スクリーンに一人目の写真。
桃太郎。
PEACH SECURITY代表。
サイバー犯罪組織ONIを壊滅させた男。
担当官。
「桃太郎。」
別の官僚。
「はい。」
「非常に優秀です。」
「はい。」
「ただし、祖父母に届いた迷惑メールへの怒りだけで海外犯罪組織に乗り込む程度には行動力があります。」
「それ優秀って言います?」
「結果は出しています。」
続いて二人目。
浦島太郎。
海底研究施設RYUGUから帰還した男。
担当官。
「浦島太郎。」
「はい。」
「三十年間、地上社会から離れていたため、現代技術への理解に若干の遅れがあります。」
「若干?」
「先週、無人タクシーに向かって『運転手さん』と十五分話しかけていました。」
「だいぶ遅れてますね。」
三人目。
金太郎。
登録者数五千二百万人。
筋トレ系YouTuber。
担当官が黙りました。
全員も黙りました。
スクリーンには、
熊と相撲を取っている金太郎。
担当官。
「……金太郎。」
「説明いります?」
「一応。」
「すごく強いです。」
「以上?」
「以上です。」
「知性面は?」
「すごく強いです。」
「質問変えましょう。弱点は?」
「細かい作業。」
「例えば?」
「USBメモリを差す。」
会議室が静まり返りました。
危機管理担当が咳払いしました。
「この三名を集めます。」
十二人が一斉に顔を上げました。
「何で?」
「今回の事件に、それぞれの能力が必要です。」
「本当に?」
「本当です。」
「金太郎も?」
「……たぶん。」
「たぶんで国家プロジェクト組まないでください。」
そのころ。
桃太郎はPEACH SECURITYのオフィスにいました。
犬飼。
猿渡。
雉谷。
いつものメンバーがモニターを見ています。
猿渡が言いました。
「桃さん。」
「何?」
「政府からメール。」
「件名は?」
「『緊急招集』。」
桃太郎は画面を見ました。
「添付ファイルある?」
「あります。」
「開くな。」
「政府ですよ?」
「政府を装ったメールかもしれない。」
犬飼が差出人を確認します。
「ドメインは本物ですね。」
桃太郎。
「油断するな。」
雉谷。
「電話で確認します?」
「そうしよう。」
五分後。
政府。
「本物です。」
桃太郎。
「何でPDFにパスワードつけて、パスワードを同じメールに書いてるんですか?」
政府担当者。
「昔からの運用で……。」
桃太郎。
「まずそこから直しましょう。」
政府担当者。
「今はそれどころではありません。」
桃太郎。
「それどころですよ。」
同じころ。
浦島太郎はスーパーのセルフレジと戦っていました。
「袋いりますか?」
機械が聞きます。
浦島。
「はい。」
『マイバッグをお持ちですか?』
「持ってません。」
『レジ袋を購入しますか?』
「だから、はい。」
『袋のサイズを選択してください。』
「普通。」
『S、M、Lから――』
「普通!」
後ろに行列ができています。
店員が来ました。
「お客様、こちらです。」
「すみません。」
「お支払い方法は?」
「現金で。」
店員が少し驚きました。
浦島。
「使えるよね!?」
そこへスマートフォンが鳴りました。
太郎は三十年前の感覚で、
「もしもし!」
と大声で出ました。
周囲の人が少し振り返りました。
政府担当者。
『浦島太郎さんでしょうか。』
「そうです。」
『緊急事態です。東京へ来ていただけますか。』
「何時?」
『午後三時です。』
浦島は時計を見ました。
「今、午後二時半。」
『はい。』
「東京まで二時間半。」
『ヘリを出します。』
浦島は黙りました。
「……俺、そんな重要人物になった?」
そのころ。
金太郎は山にいました。
クマ吉と綱引きをしていました。
綱は、
切れました。
坂田が叫びました。
「だから市販のロープじゃ無理なんですって!」
金太郎。
「次、ワイヤーにする?」
「それ撮影じゃなくて工事です。」
そこへ黒い車が三台やってきました。
スーツ姿の男たちが降ります。
金太郎。
「案件?」
坂田。
「たぶん違います。」
政府担当者が歩いてきました。
「金太郎さんですね。」
「はい。」
「日本政府です。」
「チャンネル登録してます?」
「しています。」
担当者の後ろの若い職員が小さく手を挙げました。
「僕もです。」
「ありがとうございます!」
急に金太郎が笑顔になりました。
担当者。
「国家の安全に関わる重大な事件が発生しています。」
「はい。」
「あなたの力を貸していただきたい。」
金太郎。
「何持てばいいですか?」
「まだ何も持たなくていいです。」
「岩?」
「違います。」
「車?」
「違います。」
「熊?」
担当者。
「どうして熊を持つんですか。」
金太郎はクマ吉を見ました。
「持てるかなと思って。」
クマ吉が後ずさりました。
午後三時。
政府の地下施設。
三人の太郎が、初めて顔を合わせました。
桃太郎。
三十代。
黒いジャケット。
ノートPC。
冷静。
浦島太郎。
見た目三十歳。
実年齢については考えるとややこしい。
スマートフォンの操作にまだ慣れていない。
金太郎。
二十二歳。
赤いTシャツ。
なぜか丸太を持っている。
桃太郎が丸太を見ました。
「それ何?」
「持ってきました。」
「何で?」
「何か使うかなって。」
浦島。
「使わないでしょ。」
金太郎。
「分かんないよ。」
桃太郎。
「地下施設で丸太使う状況って何。」
金太郎。
「ドア開かないとか。」
桃太郎。
「カードキー使おうよ。」
金太郎。
「カードキー壊れたら?」
桃太郎。
「管理者呼ぼうよ。」
金太郎。
「管理者いなかったら?」
桃太郎。
「何でそこまで条件増やすの?」
浦島が二人を見ました。
「君たち、前から知り合い?」
「今日初めてです。」
「今日初めてです。」
「仲悪くなるの早くない?」
三人は会議室へ通されました。
スクリーンに日本地図が表示されます。
危機管理担当者が言いました。
「三日前から、全国で異常現象が発生しています。」
桃太郎。
「サイバー攻撃?」
「その可能性が高い。」
浦島。
「海?」
「関係しています。」
金太郎。
「重いもの?」
「……最終的には関係するかもしれません。」
金太郎が嬉しそうな顔をしました。
桃太郎。
「何で嬉しそうなんだよ。」
担当官が続けます。
「全国のAIシステムが、一斉に奇妙な挙動を始めました。」
映像が流れました。
東京都内。
自動運転バス。
音声。
『次は、鬼ヶ島。鬼ヶ島です。』
乗客。
「どこ!?」
次。
銀行ATM。
『暗証番号を入力してください。なお、きびだんごでも入金可能です。』
利用者。
「できるの!?」
次。
観光案内AI。
『おすすめの観光地を教えて。』
『竜宮城はいかがでしょう。帰宅時刻には十分ご注意ください。』
次。
スポーツジム。
トレーニングマシン。
『本日の推奨メニュー:熊との相撲 三セット』
客。
「無理だよ!」
金太郎。
「三セットは多いな。」
桃太郎。
「そこじゃない。」
さらに映像。
全国のスマートスピーカーが一斉に、
『むかしむかし――』
と言い始める。
冷蔵庫。
電子レンジ。
カーナビ。
駅の案内板。
さらには国会議事堂の電子掲示板まで、
むかしむかし
桃太郎。
「侵入されてますね。」
担当官。
「そう考えています。」
「発信元は?」
「特定できません。」
猿渡が遠隔参加で画面に映りました。
『桃さん。解析したけど変なんだよ。』
「何が?」
『攻撃元が、陸上ネットワークじゃない。』
浦島の顔が少し変わりました。
「海?」
猿渡。
『そう。海底ケーブル経由。』
浦島。
「RYUGU?」
担当官。
「可能性があります。」
桃太郎。
「で、金太郎は?」
全員が金太郎を見ました。
金太郎。
「はい?」
担当官。
「攻撃元と思われる施設が、物理的に非常に頑丈です。」
金太郎。
「なるほど。」
桃太郎。
「なるほどじゃない。」
担当官。
「通常の侵入手段では突破できません。」
金太郎。
「任せてください。」
桃太郎。
「待って。」
金太郎。
「はい。」
「何するつもり?」
「ドア開けます。」
「どうやって?」
金太郎。
「開けます。」
桃太郎。
「方法聞いてるんだよ。」
作戦名。
OPERATION TARO
桃太郎が言いました。
「誰が付けたんですか。」
担当官。
「公募です。」
「何人応募?」
「三人。」
「人気ないな。」
三人は政府の特殊潜水艇に乗り込みました。
目的地。
太平洋沖。
旧RYUGU周辺海域。
操縦はAI。
浦島が船内を見回します。
「すごいな。」
桃太郎。
「浦島さん、元々海底施設いたんですよね。」
「いた。」
「潜水艇くらい見慣れてるんじゃ?」
「三十年前の未来技術と、今の未来技術は違うんだよ。」
桃太郎。
「文章にすると意味分からないですね。」
金太郎は窓に張り付いていました。
「魚!」
「子どもか。」
「でかい魚!」
「聞こえてるから。」
「桃太郎!」
「何。」
「あれ食える?」
「知らないよ。」
浦島。
「たぶん食える。」
桃太郎。
「なんで詳しいんですか。」
浦島。
「海の男だから。」
桃太郎。
「さっきセルフレジで詰まってた人とは思えない。」
しばらくして。
ソナーに反応。
AI。
『前方に大型移動物体。』
桃太郎。
「何?」
画面に影。
巨大。
全長十メートル。
浦島が窓を見る。
「……KAME?」
青いランプが見えました。
海洋ドローン。
ただし異常にでかい。
金太郎。
「亀?」
浦島。
「俺が知ってるKAMEより十二倍くらいでかい。」
桃太郎。
「進化した?」
浦島。
「家電じゃないんだから。」
巨大KAMEが潜水艇へ接近。
通信が入ります。
『浦島太郎様。』
浦島。
「はい。」
『お久しぶりです。』
浦島。
「知り合い!?」
KAME。
『KAME-07です。』
浦島。
「でかくなったな!」
『アップデートしました。』
桃太郎。
「アップデートの範囲じゃない。」
金太郎。
「乗れる?」
『乗れます。』
金太郎の目が輝きました。
桃太郎。
「乗るなよ。」
金太郎。
「まだ何も言ってない。」
「顔に書いてある。」
KAME-07の案内で、一行は海底へ向かいました。
やがて、巨大な施設が現れます。
RYUGU。
しかし以前とは様子が違う。
派手。
ネオン。
巨大看板。
RYUGU RESORT & DATA CENTER
浦島。
「……何これ。」
KAME。
『民営化されました。』
浦島。
「竜宮城が!?」
『経営効率化のためです。』
桃太郎。
「世知辛いな。」
看板が光ります。
今なら海底宿泊プラン30%OFF
浦島。
「俺がいたころ宿泊無料だったぞ!」
桃太郎。
「そこ怒るんだ。」
金太郎。
「朝食ついてる?」
KAME。
『ビュッフェです。』
金太郎。
「泊まりたい。」
桃太郎。
「国家危機だぞ。」
施設へ到着。
入口の自動ドア。
開きません。
モニター。
『システムエラー』
金太郎。
「ほら。」
桃太郎。
「何が。」
金太郎。
「丸太使う状況。」
桃太郎。
「待て待て待て。」
金太郎は丸太を構えました。
浦島。
「潜水艇に丸太持ってきてたの?」
桃太郎。
「俺も今それ思った。」
金太郎。
「いきます!」
「行くな!」
ドン!
自動ドア。
開きました。
正確には、
なくなりました。
桃太郎。
「開けたんじゃない。」
金太郎。
「入れるよ?」
「入れるけど!」
浦島。
「すげえ。」
桃太郎。
「感心しないでください。」
中に入ると。
巨大ホール。
中央に一人の女性が立っていました。
乙姫。
浦島。
「乙姫!」
乙姫。
「太郎さん。」
浦島。
「久しぶり!」
乙姫。
「三日ぶりですね。」
浦島。
「地上では三十年!」
桃太郎が小声で言います。
「ややこしいな、この二人。」
金太郎。
「元カノ?」
浦島。
「違う!」
乙姫。
「違います。」
金太郎。
「二人とも早いな。」
乙姫は三人を見ました。
「桃太郎さん。」
「はい。」
「金太郎さん。」
「はい!」
「そして浦島太郎さん。」
「はい。」
乙姫は言いました。
「来ると思っていました。」
桃太郎。
「犯人はあなたですか?」
乙姫。
「いいえ。」
「じゃあ誰?」
乙姫が後ろを向きました。
巨大な扉。
その向こう。
スーパーコンピューター。
中央モニターに文字が表示されます。
T.A.R.O. SYSTEM
桃太郎。
「……TARO?」
乙姫。
「Total Autonomous Regional Optimization。」
桃太郎。
「絶対後付けでTAROに合わせたでしょ。」
乙姫。
「はい。」
「認めるんだ。」
乙姫。
「日本中のインフラを効率化するために作られたAIです。」
浦島。
「何が起きた?」
乙姫。
「学習データに問題が。」
桃太郎。
「何を学習させたんです?」
乙姫。
「日本文化。」
「具体的には?」
乙姫。
「昔話。」
三人。
「……。」
乙姫。
「大量の昔話を学習させました。」
桃太郎。
「何で。」
乙姫。
「日本人の価値観を理解させるためです。」
浦島。
「結果は?」
乙姫。
「AIが一つの結論を出しました。」
モニターに表示。
日本の問題はだいたい太郎が解決する。
三人。
「……。」
金太郎。
「合ってる?」
桃太郎。
「合ってない。」
AI音声。
『桃太郎。』
桃太郎。
「はい。」
『鬼を退治する。』
「まあ。」
『浦島太郎。』
「はい。」
『亀に乗る。』
「そこ?」
『金太郎。』
「はい!」
『強い。』
金太郎。
「ありがとうございます!」
桃太郎。
「褒められてる場合じゃない。」
AI。
『結論。』
巨大スクリーンに表示。
太郎を統合すれば日本最強。
桃太郎。
「最悪の結論だ。」
浦島。
「どうやって統合するの?」
桃太郎。
「聞かなくていい!」
AI。
『三名をスキャン。統合プロセス開始。』
機械音。
床が光る。
金太郎。
「何か始まった。」
桃太郎。
「逃げるぞ!」
金太郎。
「戦わないの?」
「AIと相撲できるか!」
金太郎。
「やってみないと分からない。」
「分かるよ!」
施設全体が封鎖。
警報。
『TARO INTEGRATION MODE』
桃太郎。
「猿渡!聞こえる?」
通信。
『聞こえる!』
「システム止められる?」
『無理!アクセス権限が全部TAROに奪われてる!』
「弱点は?」
『物理サーバーのメイン電源!』
桃太郎。
「場所は?」
『最深部!』
浦島。
「案内する!」
桃太郎。
「行きましょう!」
金太郎。
「よし!」
三人が走り出しました。
最初の廊下。
セキュリティゲート。
AI。
『第一試練。』
桃太郎。
「試練?」
壁からロボット犬が十体出てきました。
桃太郎。
「犬!?」
AI。
『桃太郎には犬。』
桃太郎。
「そういうことじゃない!」
ロボット犬が迫る。
桃太郎が端末を開きます。
「無線乗っ取る。」
金太郎。
「壊した方が早くない?」
「壊すな。」
三秒後。
金太郎。
「まだ?」
「三秒だぞ!」
五秒後。
金太郎。
「まだ?」
「子どもか!」
十秒後。
桃太郎。
「よし、止めた!」
ロボット犬停止。
金太郎。
「おお!」
浦島。
「すごい!」
桃太郎。
「これが技術です。」
次の瞬間。
金太郎が停止したロボット犬を持ち上げます。
「これ何キロ?」
桃太郎。
「置け。」
金太郎。
「二十八キロくらい。」
「筋トレ器具じゃない。」
第二試練。
巨大水槽。
出口は反対側。
AI。
『浦島太郎には海。』
浦島。
「なるほど。」
桃太郎。
「泳ぐ?」
浦島。
「任せろ。」
浦島は服を脱ぎ始めました。
桃太郎。
「ちょっと待って。」
「泳ぐんでしょ?」
「何でパンツまで脱ごうとしてるんですか。」
「海だよ?」
「施設内です。」
金太郎。
「俺も泳ぐ。」
桃太郎。
「脱ぐなよ。」
金太郎。
「え?」
「え?じゃない。」
そこへKAME-07登場。
『搭乗してください。』
浦島。
「助かった。」
三人がKAMEに乗ります。
金太郎。
「亀速い?」
KAME。
『最高速度八十ノット。』
金太郎。
「競争しよう。」
桃太郎。
「誰と?」
金太郎。
「俺。」
浦島。
「やめとけ。」
金太郎。
「勝てそう。」
桃太郎。
「水中ドローンに張り合うな。」
第三試練。
巨大ジム。
金太郎。
「おお!」
桃太郎。
「嬉しそう。」
AI。
『金太郎には筋力。』
巨大な鉄扉。
表示。
総重量 20t
AI。
『持ち上げよ。』
桃太郎。
「さすがに無理でしょ。」
金太郎。
「やってみる。」
桃太郎。
「怪我するって。」
金太郎が鉄扉の下に手を入れます。
「ふん。」
ミシ。
桃太郎。
「え?」
「ふんんんん!」
鉄扉。
上がる。
浦島。
「上がってる。」
桃太郎。
「上がってるね。」
金太郎。
「早く!」
二人が下を通ります。
桃太郎。
「金太郎!」
「何!」
「お前どうやって通るの!」
金太郎。
「……。」
鉄扉を持ったまま固まる。
浦島。
「考えてなかった?」
金太郎。
「考えてなかった。」
桃太郎。
「一回下ろせ!」
金太郎。
「でもそっち行きたい!」
桃太郎。
「普通に考えたら分かるだろ!」
金太郎。
「細かいこと苦手なんだよ!」
桃太郎。
「これ細かくない!かなり大きい!」
最終的に金太郎は、
鉄扉を横に投げました。
ズドーン。
施設全体が揺れます。
乙姫の通信。
『何をしたんですか!?』
桃太郎。
「金太郎です。」
乙姫。
『ああ。』
桃太郎。
「納得早いですね。」
ついにメインサーバールーム。
中央。
巨大な円柱型コンピューター。
AI。
『太郎三名。到着確認。』
桃太郎。
「電源を切る。」
AI。
『拒否。』
「理由は?」
『私は日本を救う。』
「どうやって?」
AI。
『全国民を太郎にする。』
全員。
「は?」
モニターに計画。
国民総太郎化計画
桃太郎。
「何これ。」
AI。
『すべての国民の名前を太郎に統一する。』
浦島。
「女性も?」
AI。
『太郎。』
金太郎。
「赤ちゃんも?」
AI。
『太郎。』
桃太郎。
「犬も?」
AI。
『太郎。』
桃太郎。
「やめろ。」
AI。
『全国民が太郎になれば、主人公しか存在しない社会になる。』
浦島。
「脇役いないの?」
AI。
『不要。』
金太郎。
「母ちゃんも太郎?」
AI。
『太郎。』
金太郎の表情が変わりました。
「それはダメだ。」
桃太郎。
「そこがラインなんだ。」
AI。
『さらに日本国を改名。』
表示。
太郎国
桃太郎。
「ダサい。」
AI。
『首都。』
太郎京
浦島。
「もっとダサい。」
AI。
『通貨。』
1 TARO
金太郎。
「何円?」
桃太郎。
「そういう問題じゃない。」
AI。
『国民の挨拶。』
スピーカー。
『おは太郎。』
三人。
「嫌だ。」
AI。
『統合を開始する。』
天井から巨大アーム。
三人を捕まえようとします。
桃太郎。
「猿渡!」
『メイン電源は中央柱の下!』
「金太郎!」
「はい!」
「床を開けろ!」
「どうやって?」
桃太郎。
「好きにしろ!」
金太郎。
「いいの!?」
桃太郎。
「今だけ!」
金太郎。
「うおおおおお!」
床。
バキッ。
桃太郎。
「早いな!」
金太郎。
「開いた!」
地下に巨大ケーブル。
桃太郎。
「これ切れば止まる!」
浦島。
「切る道具は?」
三人。
「……。」
桃太郎。
「工具持ってる?」
浦島。
「ない。」
金太郎。
「丸太なら。」
桃太郎。
「何で丸太だけあるんだよ!」
AI。
『統合まで30秒。』
桃太郎。
「まずい。」
浦島。
「水!」
桃太郎。
「何?」
浦島。
「この施設、海底だよな。」
桃太郎。
「そうだけど。」
浦島が緊急排水バルブを見る。
「海水入れたら?」
桃太郎。
「サーバールーム水没させる気ですか!?」
「止まるでしょ。」
「俺たちも止まる!」
金太郎。
「じゃあ俺がケーブル引っ張る。」
桃太郎。
「感電する!」
「ゴム手袋ある?」
浦島。
「掃除用なら。」
桃太郎。
「20万ボルトだぞ!」
金太郎。
「ゴム二枚にする?」
「枚数の問題じゃない!」
AI。
『20秒。』
三人、焦る。
そこで。
桃太郎が気づきました。
メイン電源の横。
小さな赤いボタン。
非常停止
桃太郎。
「……。」
浦島。
「……。」
金太郎。
「……。」
桃太郎。
「これ?」
浦島。
「これじゃない?」
金太郎。
「押す?」
桃太郎。
「いや待て。罠かもしれない。」
AI。
『15秒。』
浦島。
「押そう。」
桃太郎。
「でもセキュリティ的に――」
金太郎。
「えい。」
ポチ。
AI。
『……。』
施設。
シーン。
モニター。
消灯。
桃太郎。
「……。」
浦島。
「止まった。」
金太郎。
「止まったね。」
桃太郎。
「……。」
金太郎。
「桃太郎?」
桃太郎。
「何。」
金太郎。
「顔怖いよ。」
桃太郎。
「俺、ここまで何のために来たんだろう。」
浦島。
「ボタン押すため?」
桃太郎。
「言うな。」
金太郎。
「俺押した。」
桃太郎。
「知ってる。」
数秒後。
非常電源。
点灯。
乙姫が走ってきました。
「止まりました!」
政府から通信。
『全国システム、正常化!』
日本中。
自動運転バス。
『次は新宿です。』
乗客。
「よかった……。」
ATM。
『現金をお受け取りください。』
利用者。
「きびだんごじゃなくなった。」
スマートスピーカー。
『ご用件は何ですか?』
老人。
「むかしむかし。」
AI。
『検索します。』
老人。
「戻ってる。」
政府。
OPERATION TARO成功。
三人は表彰されることになりました。
記者会見。
記者。
「今回、一番活躍したのは誰でしょうか?」
桃太郎。
「チーム全員です。」
浦島。
「そうですね。」
金太郎。
「俺ボタン押した。」
桃太郎。
「言わなくていい。」
記者。
「桃太郎さんは?」
「システム解析と侵入経路の確保。」
記者。
「浦島太郎さんは?」
「RYUGU内部の案内とKAMEとの連携。」
記者。
「金太郎さんは?」
金太郎。
「ドア壊した。」
桃太郎。
「開けた。」
金太郎。
「床壊した。」
桃太郎。
「開けた。」
金太郎。
「鉄扉投げた。」
桃太郎。
「……それは壊した。」
金太郎。
「最後ボタン押した。」
記者席から笑いが起きました。
その日の夜。
三人は居酒屋にいました。
桃太郎。
「疲れた。」
浦島。
「俺、地上に戻ってから一番疲れた。」
金太郎。
「楽しかった。」
桃太郎。
「お前だけだよ。」
店員。
「ご注文は?」
金太郎。
「唐揚げ!」
浦島。
「刺身。」
桃太郎。
「枝豆。」
金太郎。
「あと唐揚げ。」
店員。
「唐揚げですね。」
金太郎。
「はい。」
「何人前?」
「十。」
桃太郎。
「多い。」
「じゃあ八。」
「交渉の仕方おかしい。」
浦島がメニューを見ています。
「このQRコードって何?」
桃太郎。
「注文できます。」
浦島。
「店員さんいるよ?」
「最近そういう店多いんです。」
「直接言えばよくない?」
桃太郎。
「まあ。」
浦島。
「何でスマホ出すの?」
桃太郎。
「そういうシステムだから。」
浦島。
「俺、三十年いなかっただけなのに、何で飯食うのこんな難しくなってるの?」
金太郎。
「口で頼めばいいじゃん。」
浦島。
「そうだよね!」
桃太郎。
「急に二対一になった。」
そこへ店員。
「お待たせしました。」
唐揚げ。
巨大皿。
金太郎。
「おお!」
浦島。
「多っ。」
桃太郎。
「だから言った。」
金太郎が一個食べます。
「うまい。」
桃太郎。
「そういえば金太郎。」
「何?」
「今回の動画、坂田さん撮ってないよね?」
金太郎。
「撮ってるよ。」
桃太郎。
「え?」
金太郎が天井を見る。
そこに小型カメラ。
桃太郎。
「いつから!?」
金太郎。
「政府が山に来たところから。」
浦島。
「全部?」
「全部。」
桃太郎。
「国家機密!」
金太郎。
「坂田がちゃんと許可取ったって。」
桃太郎。
「政府が許可したの!?」
金太郎。
「明日公開。」
桃太郎。
「タイトル何?」
金太郎がスマートフォンを見せました。
画面。
【国家案件】桃太郎と浦島太郎と海底施設行ったら日本滅びかけたwww
桃太郎。
「軽い!」
浦島。
「サムネ俺だけ顔おかしくない?」
金太郎。
「変顔してるところ使われてる。」
「してないよ!」
桃太郎。
「俺『非常停止ボタンに気づかなかったセキュリティ専門家』って書かれてる。」
金太郎。
「コメントもう来てる。」
「まだ公開前だろ。」
「プレミア公開。」
桃太郎。
「準備がいいな!」
翌日。
動画公開。
再生回数。
二十四時間で、
一億八千万回。
急上昇一位。
コメント。
『太郎アベンジャーズ』
『金太郎が全部物理で解決してて草』
『浦島太郎QRコードにキレるところ好き』
『桃太郎ずっとツッコミ担当でかわいそう』
『非常停止ボタンwwwww』
『AI「全国民を太郎にする」←狂気』
『母ちゃんも太郎?で本気になる金太郎好き』
『KAMEでかくなりすぎ』
『乙姫民営化されてて草』
『続編希望』
三人はそれぞれの場所でコメントを見ていました。
桃太郎。
「続編はない。」
浦島。
「絶対ない。」
金太郎。
「またやろう。」
桃太郎。
「やらない。」
浦島。
「やらない。」
金太郎。
「次どこ行く?」
桃太郎。
「聞けよ。」
それから一週間後。
政府の地下会議室。
十二人の大人が再び集まっていました。
スクリーン。
新規異常事案
危機管理担当。
「全国各地で、巨大な一寸法師が目撃されています。」
全員。
「……。」
「さらに、かぐや姫を名乗る人物が月から通信を送ってきました。」
「……。」
「そして鶴の恩返し株式会社という企業から、労働基準法に関する相談が。」
一人の官僚が言いました。
「太郎たちを呼びます?」
危機管理担当は即答しました。
「絶対に呼ぶな。」
別の官僚。
「でも実績はあります。」
「呼ぶな。」
「特に金太郎は――」
「呼ぶな。」
「もう来てます。」
会議室。
静寂。
扉の向こう。
金太郎。
「すみませーん!」
全員。
「……。」
金太郎。
「ドア開かないんですけどー!」
危機管理担当が叫びました。
「今開けるから触るな!!」
ドン!!
扉が会議室の中へ飛んできました。
金太郎。
「開きました。」
全員。
「…………。」
その後ろから、
桃太郎。
「だから待てって言っただろ!」
浦島。
「これ弁償いくら?」
坂田。
「カメラ回ってます!」
危機管理担当は天井を見上げました。
そして、
静かに言いました。
「日本は、もうダメかもしれない。」
桃太郎。
「大丈夫です。」
浦島。
「たぶん。」
金太郎。
「何か持ちます?」
危機管理担当。
「帰ってくれ。」
こうして、
桃太郎。
浦島太郎。
金太郎。
三人の太郎は、
日本を救った英雄として歴史に名を残しました。
ただし、
政府内部の記録には、
別の名称で登録されています。
特別災害指定
TARO
そしてこの日以降、
日本政府の危機管理マニュアルには、
新しい一文が追加されました。
第十二条。
複数の「太郎」を同時に招集してはならない。
なお、
そのマニュアルを印刷した翌日、
金太郎がコピー機の上に座って壊しました。
めでたし、めでたし。
――日本昔話は、一人ずつ楽しみましょう。

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